8月の別名「葉月」が持つ本来の意味とは
カレンダーが8月を指すと、私たちは照りつける太陽や厳しい暑さを真っ先に思い浮かべるかもしれません。しかし、日本の伝統的な呼び名である「葉月(はづき)」という言葉に耳を澄ませると、そこには意外にも涼やかな秋の足音が潜んでいます。
なぜ、一年で最も暑い盛りの時期に、秋を連想させる名前がついているのでしょうか。その理由は、かつて日本で使われていた旧暦(太陰太陽暦)と、現在私たちが使用している新暦(グレゴリオ暦)の間に生じる「季節のズレ」にあります。
旧暦の8月は、現在の暦でいえばおおよそ9月頃に相当します。つまり、当時の人々にとっての8月は、夏の盛りを過ぎ、木の葉が色づき、秋の気配が色濃くなる時期だったのです。本記事では、8月の代表的な別名である「葉月」の由来から、あまり知られていない風雅な異称まで、言葉の裏側に隠された日本の情景を紐解いていきます。
「葉月」の由来にまつわる諸説|なぜ木の葉が落ちる月なのか
「葉月」という呼び名の語源には、古来よりいくつかの説が伝えられています。最も有力とされているのは、季節の移ろいをそのまま表した「葉落ち月」という説です。
日本では、旧暦8月を葉月(はづき)と呼び、現在では新暦8月の別名としても用いる。葉月の由来は諸説ある。木の葉が紅葉して落ちる月「葉落ち月」「葉月」であるという説が有名である。
出典:Wikipedia
旧暦の8月(現在の9月頃)は、植物が冬の支度を始める時期にあたります。青々としていた木の葉が役割を終え、地面へと舞い落ちる様子を、当時の人々は「葉落ち月」と呼び、それが転じて「葉月」になったと考えられています。
しかし、語源はこれだけではありません。農耕や自然現象に基づいた、以下のような興味深い説も存在します。
| 説の名前 | 由来の概要 |
|---|---|
| 穂張り月(ほはりづき) | 稲の穂が大きく張り、実を結ぶ時期であることから。 |
| 初来月(はつきづき) | 北から雁(がん)などの渡り鳥が初めてやってくる時期であることから。 |
| 南風月(はえづき) | 南から吹く強い風(台風)が多い時期であることから。 |
特に「南風月」については、現代の気象感覚とも通じる部分があります。
8月は「南風月(はえづき)」とも言われていて、「はえづき」から「はづき」になったという説もあるようです。ここでいう「南風」の月というのはどういう意味かというと、台風が南からよく来る月ということなんです。
出典:UMKテレビ宮崎
「葉月」だけではない8月の多彩な異称と風情
日本語には、一つの月に対して驚くほど多くの別名が存在します。これらは「異称(いしょう)」や「異名(いみょう)」と呼ばれ、その時々の自然の美しさや生活の営みを切り取ったものです。
「葉月」以外にも、8月には以下のような美しい呼び名があります。
- 月見月(つきみづき):旧暦8月15日の「中秋の名月」を鑑賞する習慣に由来します。
- 燕去月(つばめさりづき):春にやってきた燕が、子育てを終えて南の国へ帰っていく時期を指します。
- 木染月(こぞめづき):草木が紅葉し、山々が染まり始める様子を表しています。
- 竹春(ちくしゅん):竹は春に筍(たけのこ)を育てると親竹の葉が黄色くなりますが、秋になると再び青々と勢いを取り戻すことから、竹にとっての「春」という意味で使われます。
葉月以外の8月の異称(一例)
月見月(つきみづき):中秋の名月(旧暦8月15日の月)を鑑賞する月
燕去月(つばめさりづき):燕(つばめ)が南に渡る月
木染月(こぞめづき):紅葉が始まる月
竹春(ちくしゅん):タケノコが若葉を茂らせ成長する様子
これらの言葉を知ると、単に「暑い夏」として過ごしていた8月が、実は繊細な変化に満ちた季節であることに気づかされます。
旧暦8月と現代の季節感|立秋から始まる秋の物語
現代の感覚では、8月は夏休みの真っ最中であり、一年で最も気温が高い時期です。しかし、暦の上では8月上旬に「立秋(りっしゅう)」を迎えます。この日を境に、季節は夏から秋へと移り変わるとされているのです。
手紙の挨拶において、立秋を過ぎると「暑中見舞い」ではなく「残暑見舞い」を用いるのは、この暦のルールに基づいています。たとえ現実の気温が40度近い猛暑であっても、言葉の上では「秋の残りの暑さ」として扱う。ここには、目に見える暑さの中に、わずかな風の涼しさや虫の声の変化を感じ取ろうとする、日本人の「季節を先取りする」美意識が反映されています。
旧暦の8月が現在の9月頃を指していたことを踏まえると、先人たちが「葉月」という名に込めた「秋の訪れ」という感覚は、当時の気候に即した非常に写実的なものだったと言えるでしょう。
言葉を通じて季節を味わう|8月の別名が教えてくれること
「葉月」という言葉の由来を辿る旅は、いかがでしたでしょうか。
木の葉が舞い落ちる「葉落ち月」、実りに感謝する「穂張り月」、そして月を愛でる「月見月」。これらの別名は、単なる古い呼び名ではありません。それは、私たちが忘れかけている「季節の微かな変化」に目を向けるための窓のようなものです。
次にあなたがカレンダーの「8月」という文字を見たとき、あるいは「葉月」という響きを耳にしたとき、空を見上げてみてください。そこには、真夏の太陽の向こう側に、確かに秋の気配が忍び寄っているはずです。言葉を知ることで、あなたの日常はより豊かで、彩りあるものへと変わっていくことでしょう。
日本の美しい言葉や暦の文化について、さらに詳しく知りたい方は「二十四節気と七十二候の基礎知識」も併せてご覧ください。